2009年2月13日金曜日

[37signals] 大企業において、はみ出し者になるということ(Best Buy 風に)

(原文: Going rogue inside a big company (a la Best Buy))

どうすれば大企業において Getting Real 的なアイディアを実施出来るのだろう? はみ出し者になる、というのが良い案だ。何か良いネタを見つけ出し、こっそりと実行するのだ。普通なら数ヶ月掛かるものを数週間で作り上げるのだ。現状より上手いやり方で何かをやってのけるのだ(上手く行くという証拠を示す、というのでも可)。そうすれば、くどくどと誰かを説得する必要は無い。結果が全てを語ってくれるのだから。

先日のアクセル・ローズ vs. フランク・シナトラ(訳注: 訳はこちらに続き、今回も音楽を例に挙げよう。君がバンドのドラマーだと仮定してみてほしい。もし君がバンドリーダーに、これまでと違ったことをする許可を求めたとしても、君の全身全霊をこめた説得が口喧嘩に終わるか、アイディアが却下されるというオチになるだろう。だが、最も良いと君が思った事をそのまま実行してみたらどうなるだろう? コーラスの最中にライドシンバルに切り替えたり、スティックでなくブラシで叩くようにしたらどうなるだろう? もしそれが良く聴こえたら、それが良いのだ。みんなが納得してくれるだろう。

君の目指す方向に物事を進めたいならば、これが近道だ。理屈を脱して実行に移すことだ。打つ手や代案があるならば、議論に時間を費やすことはない。

Best Buy の Blue Shirt Nation

家電小売業の巨人である Best Buy は、私の知る限りで最も革新的な職場のうちの一つを実現した。この革新をもたらした主因は、そこに勤務する大胆不敵なる従業員が、はみ出し者になるという決意をしたことにある。

Best Buy 従業員向けのオンラインコミュニティとして大きな成功を収めている Blue Shirt nation (BSN) を立ち上げた Steve Bendt と Gary Koelling が例として挙げられる。サイト構築後一年もしないうちに、2万人の従業員(全従業員数は15万人)が登録した。従業員達はそこで顔を合わせ、知識・ベストプラクティス・店舗の売り上げを伸ばす為のアイディアといったものを共有した。

そして、こういったことを Bendt と Koeller はこっそりと行った。自分たちのやっている事を売り込んだりはしなかったのだ。上司に許可を求めるようなことはしなかった。サイトを構築しただけだ。Steve Bendt はこう説明している
私達から見てもスポンサーが付くとはとても思えないアイディアをもとに、BSNはスタートした。サイトが動き始めた2006年6月、Gary は全てを BSN に注ぎ込んだ、内緒でね。ドメイン取得と1年間のホスティング料で100ドルかかった。サイト構築の為のソフトは全てフリーソフトウェアにした。ユーザは一人だけ。サイト管理者だ。
モデレーション(訳注: サイト運営者が投稿内容をチェックし、チェックを通ったものだけを掲載する事)はコミュニティ自らが行った。モデレーションの必要性自体ほとんど生じなかったからというのもあったんだがね。開始早々のうちは、バックアップに保存された投稿数がトータルで3件というありさまだった。Bendt が怖れたのは、上の連中が従業員に対して BSN のことを大っぴらに口にするよう仕向けるのではないかということだったが、そうはならなかったと語る:
上層部の多くが公開フォーラムを作ることを考えているように私には思えて不安だったんだが、Blue Shirt Nation はそんなことにはならなかった。私達はコミュニティの運営について責任を感じ、こう言ったんだ「みんな聞いてくれ、馬鹿な事(訳注: BSN を必要以上にオープンにするような事か?)をしないよう、お互い気をつけようじゃないか」
「みんな聞いてくれ、馬鹿な事をしないよう、お互い気をつけようじゃないか」とはまさに金言だ。ああ、従業員にこのような考えを持つ事を奨励する企業がもっと増えてくれればなあ。

ゲリラ戦法により実現した成果主義

Best Buy 従業員が、はみ出し者になることで革新をもたらした事例は Blue Shirt Nation だけではない。企業の方針を成果主義へと押し進めるために秘密裡に実践活動を行った二人の従業員のおかげで、企業カルチャー全体に変化がもたらされた。

何年も前の事になるが、Best Buy は「でかくて堅苦しい」企業の典型だった。職員は朝早く出勤し、夜遅くまで勤務しなければならなかった。時には昼食時でさえ外出簿に署名を求められることもあり、レストランの場所と帰社予定時刻も併せて記入する必要があった。15分間隔で従業員の勤務状況を調査する職務というのもあった。従業員達は、死ぬ程長い勤務時間・自分の生活というものの欠如・耐え難いストレスの中でやっていくことについて不平を漏らした。

人事部に所属していた Jody Thompson と Cali Ressler の二人は、状況が芳しくないことに気付き、実験を行う事にした。二人はプライベートで会合を持ち、勤務時間によってではなく産み出した成果によって従業員の考課を行うという成果主義のアイディアを思いついた。その後、二人は秘密裡の先行実験を、ゆっくりと少しづつ行った。

勤務時間の基準を撤廃し、日程表を撤廃し、会議の出席義務を撤廃した。当初、こういった試みが少数の部署にて始められた。この秘密裡のゲリラ戦はあっという間にウィルスのように拡散し、企業に革命をもたらした。

トップダウンで承認されるのを待っていたら、こんなことは決して起こり得なかった。実際、CEO の Brad Anderson が全貌を把握したのは、この変革が企業を変え始めてから2年後のことであった。

Best Buy の従業員達はいかにして「そんなことしたら生産性が落ちるんじゃないか?」という、企業上層部に昔から根強く見られる懸念を打ち破ったのだろう? 結果で示したのだ。オンライン受注業務の監督を担当している Chap Achen は、彼のチームの人員が一時間あたりに何件の受注処理をこなすことが出来るかを勤務場所を変えて測定するという業務効率測定法を思い付いた。1ヶ月もたたないうちに、Achen はこの変革が上手く行っていることを証明する事が出来た。勤務地に常駐している職員に比べ、常駐しない職員の方が13〜18%多く受注処理をこなしていた。時が経つにつれ、実験は一層大きな成果をもたらすであろうということが誰の目にも明らかになった。部署における職務満足度と職員定着率が、これまでで最良の数字を示したのだ。この事実を前に、誰が敢て実験に文句を付けようとするだろう?

実験がもたらした結果は、全社を通じて同じものとなった。離職率は劇的に低下した。成果主義へと方針を変えた部署では、平均して35%の生産性向上がみられた。従業員の職務満足度も同様に向上した。

二人のはみ出し従業員がもたらした変化には驚くべきものがある。彼らが Best Buy のような大企業においてもやってのけたのだから、諸君の職場においてもやれる事はあるんじゃないか?

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