2009年7月14日火曜日

[メモ] 先生、心中お察し申し上げます

寺田寅彦先生が『連句雑俎』にて、俳諧味という物は日本固有の物だと主張しておられます。

文脈的には、とある論文でチャンバレーン博士(同じ「お雇い外国人」である小泉八雲とも親交のあったBasil Hall Chamberlainのことかと思われる)が言ったとされる言葉を引きつつ日本人は独創能力に乏しいという主張が述べられる一節について、俳諧連句を解せぬ毛唐人どもに何がわかるかと寺田先生が噛み付くという流れ。

文明の普遍と個別を吟味し尽くした寺田先生をして毛唐人どもにありがちな原理主義に陥らしめ「俳諧味は日本にしかない」と逆上させるに至らしめたチャンバレーン博士の暴言はまさに断罪されるべきではありますが、彼と同様の冥府魔道に堕つるは先生の本懐とするところではありますまい。

米国には米国の、独国には独国の、ジンバブエにはジンバブエの俳諧がある、という俳諧味の普遍性を我々に示唆してくださったのは他ならぬ先生であります。その先生が敢て俳諧の独自性を主張するに至る心的環境的経過を察するに、当時の、そして現在に至る「俳諧味を蔑ろにする日本人」のありようが思い起こされ、忍びない物がございます。憂国の士はただ銃刀を手に闘うもののみに非ず。

何にでもケチャップかける國なりとしみじみ笑ふこれも俳諧
松林をオークの森に置き換へてブルックナーは墺の等伯

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